小札の漆塗りに挑戦しました

はじめに

こんにちは。社員の平田です。

 甲冑には小札(こざね)と呼ばれるパーツが使われています。

札状の板に糸や革紐を通す穴を開け、繋ぎ合わせることで防御力を高める、日本の甲冑の最大の特徴とも言える部分です。

中には2000枚以上の小札を繋ぎ合わせて完成させる甲冑もあります。

今回は熟練の職人の指導のもと、私を含む若手社員が実物の甲冑の小札がどのようにしてつくられていたかを製作して学びました。

目次

  1. 小札の素材
  2. 漆の塗り方                         
    1. 下地塗り
    2. 中塗り
    3. 上塗り
  3. まとめ

1. 小札の素材

まずはお手本を見てみましょう。

 

こちらは雄山で製作した等身大鎧で、鎌倉幕府の有力御家人である畠山重忠が武蔵御嶽神社に奉納したと伝わる赤糸威鎧の模写です。できる限り当時と同じ素材を使い、できる限り当時と同じ製法で再現しました。

小札は心臓の周りなど急所にあたる部分には鉄板が使われておりますが、ベースとなっているのは牛の生革(きがわ)です。

 

生革は、牛皮の表面の不純物を取り除き、乾燥・硬化させたものです。半透明に仕上がり、硬くて軽い質感が特徴です。和太鼓の皮や犬の骨ガム等でも使われています。赤糸縅鎧には、牛一頭の半身分が使われています。

艶のある黒は漆塗りを施しています。今回はこの漆塗りに焦点をあて、作業工程を写真とともにご紹介していきます。

 

2. 漆の塗り方

2.1 下地塗り

まず、鉄工ヤスリで表面を平らにします。

左が削ったものです。

その後、下地用の茶色い生漆を刷毛で薄く塗ります。漆は原料である樹液に含まれる成分により、体質によっては肌がかぶれてしまうこともあるのでゴム手袋をはめて塗ります。手についてしまった場合はシンナーで落とします。

漆は他の塗料と違い、乾かすために湿度が必要となります。通常は70%~80%の湿度で固まると言われていますが、じっくり固めたい場合や早く固めたい場合は、室(ムロ)と呼ばれる箱や小部屋に入れ、霧吹き等で湿度を調整します。湿度の管理は漆塗りの職人さんが苦労されているところだと思いますが、今回の製作時期は夏で湿度も高く、室もなかったので、社内に吊るして硬化させました。ご了承ください。

下地の漆を塗って乾かしたものがこちらです。

2.2 中塗り

次は、中塗り用の黒い生漆を繰り返し塗っていく工程です。

 サンドペーパー等を使って平らにし、

 

その後、漆を均一に薄く塗ります。

 研磨→塗り→乾燥を10回以上繰り返します。漆を生地に吸い込ませ、少しずつ層を重ねていくような作業で、今回は13回塗りました。

こちらが中塗り3日目

こちらが9日目です。表面が変化し、手触りも滑らかになっていくのがわかりました。

 

なお、漆を塗った刷毛は、菜種油を染み込ませ付着した漆をしごき出して掃除をします。漆と菜種油は、絵の具と水の関係に似ていると思いました。

 

2.3 上塗り

10日間自然乾燥させた後に、上塗り用の黒い漆を塗って仕上げます。

 

上塗りは中塗り用の漆と比べて水分が多いため、埃などが表面に付着しないよう気をつけます。乾いた時に刷毛目が出ないよう幅の広い刷毛でコーティングするように塗り、箱に入れて乾燥させました。 

表面に光沢ができました。こちらで完成です。

まとめ

全ての作業で1か月ほどかかりました。小札だけで1か月かかるのは正直驚きで、当時の大将に着させる甲冑はとても手間がかかっていたことを実感しました。また、漆という植物由来の天然塗料は扱いが特殊で、ムラが出ないように塗るのは難しく、漆器など漆加工の職人さん達の技術に頭が下がる思いでした。

小札の素材として生革が使われた理由ははっきりとわかっていません。私の考察ですが、狩猟によって得た動物の皮を防寒や衝撃から守るため加工する「革文化」が日本には古くから根付いていたため、丈夫さと動きやすさが求められる鎧に、牛の生革が適していたのではないでしょうか。

今回は実物の甲冑の小札の製造工程を見ていきましたが、五月人形の小札についてもご紹介できたらと考えています。